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漫画家きむらひろきのブログ

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ワズラ0話のプロット掲載

wazuraco01kan.jpg

漫画制作に携わっている方はご存じだと思いますが、漫画は原稿を制作する前に「ネーム」を切り、その前には、物語のあらすじをまとめる「プロット」という過程が(一般的には)あります。
今回、思うところあって、過去の連載漫画「ワズラ」の、0話のプロットを掲載してみることにしました。

「ワズラ」は、一話32ページ程度の連載でしたが、単行本に収録されている「0話」は、連載開始前に描いた60ページほどの読み切りです。このプロットはそれを描く時に編集部へ提出した物の初稿です。テキストのデータをそのまま掲載しましたので、誤字などありましたらごめんなさい。

(ちなみに、このテキストにまとめる手前には、手書きのメモや落書きなどで作品を構築していく過程がありました。自分は、かなりお話の筋が成立してからでないと、他者が読める状態のテキストにまとめることが出来ません)

実際はこれを書いた後、もう一度だけ書き直しをしましたが、お話の筋書き自体はあまり変わっていません。ただ、作品をご存じの方は気付かれると思いますが、このプロットの段階では作品のタイトルや各名称などが、漫画とはあちこち違っています。
結構な文章量だと思いますが、興味が有る方はご覧下さい。

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ゆめのなかから 読み切り篇プロット


「三幸ちゃん、三幸ちゃーん!」
 呼び止める声に少年(12歳の三幸)が振り返ると、同じくらいの歳の、着物を襷掛けにして篭を背負い、お下げを結った可愛い女の子が追ってくる。追いつくと少女は風呂敷包みと竹筒の水筒を手渡して「これ、うちで作ったお饅頭!これから山仕事行くんでしょ、持ってって」と言いながら、にっこり笑う。
「楓、行くよー」向こうで大人が少女を呼ぶと、はーい!と元気良く返事をして、じゃあまたね!と手を振ってからかけて行く。
 眩しそうに少女を見送る少年。


 タイトルページ


 (現國の世界の)人気のない寂しい山道を、一人の木こりが歩いている。
 そこへ現れる一匹の怪士。見た目は手足の長い猿で顔もあるが、体は蔓状の植物が絡み合って出来ていて、大きさは人間と同じ程度。
 木こりは悲鳴を上げて逃げようとするが、怪士が猿のポーズで、ボウボウボウ…と不気味な声で鳴き出すと、まるで金縛りにかかったように動けなくなる。身動きの取れない木こりへ蔓を伸ばして襲いかかる怪士。
 だがそこへ洋村三幸登場。三幸は怪士の鳴き声の術を物ともせず、怪士に対して攻撃。一方、その後方では紫ノ杉木兎が続いて現れ、動けない木こりの術を解いて逃がしつつ、怪士を見ながら「三幸、気をおつけ。やっぱり蔓マシラだ!」と口にする。
 怪士「蔓マシラ」は転身、山道を逃げる。追う三幸。やがて道端の道祖神(?)の社に飛び込み、姿を消してしまう。三幸は舌打ちをしながら、こんな所に扉が…と呟き、「逃がすか!」と続いて飛び込む。暗転。

 暗闇から抜け出ると、梦津國の世界(現実の現國と区別する為に、梦津國ならではの不思議な風景が入ると良い?)。そこへ、さっきの蔓マシラの攻撃が急襲。
 それをかわし、迎撃する三幸。強引にやり込むが、隙をつかれて蔓マシラに片腕を切り落とされる。断ち切られた服の袖から吹き出す血、痛みと怒りに顔を歪める三幸。だがそれでも怯まず、悪態を吐きながら攻撃を加え(血が攻撃の武器となっても良いかも)、とうとう蔓マシラにとどめの一撃を見舞う。
 しかし三幸の攻撃はまだ止まらない。「おやめ、もう死んでるよ!」背後に来ていた木兎が声を荒げたが、蔓マシラの体は切り刻まれ、ようやく三幸は止まった。

 「やりすぎだよ」木兎は渋い顔をするが、三幸は自分の、血の滴る腕を押さえたまま、容赦する必要があるか、コイツのせいで人間が5人も死んだんだぜ、と言い捨てる。
「そんな無茶な戦い方をしてたら、幾らお前でもいつか命を落とすよ」木兎は苦言、三幸はそれを無視しながら、切り落とされた傷口を押さえている手に力を込め、顔を歪ませる。すると真新しい腕がずるりと生え「…それはどうだかな」呟く三幸。溜息を吐く木兎。
 用は済んだ、さっさと現國に戻ろうと言いながら、三幸は懐から不思議な飾りの付いた懐中時計を出してフタを開く。すると二人の足元に魔法陣のような図柄が浮かび上がり、二人の姿はかき消えた。

 消えた二人の跡を、遠くから何かの意識が見ているイメージを挿入。憎しみの呪詛を繰り返すような感じのフレーズで…


 ナレーションと背景絵で、物語の舞台設定、現國と梦津國のこと、梦津國の怪士と、それが現國の人社会に与えている影響、そして骨董店「古今屋」に住む三幸と木兎が、実は怪士に関する事件を解決する仕事をしている事などを軽く説明挿入。


 蔓マシラの事件から一ヶ月後、一人で古今屋で店番をする三幸。客は来ず暇。
 昼時の時間を示す時計を見て、店から母屋へ向かう。家の中は散らかり放題、洗濯物の山と、台所の水場には洗い物の食器が積み上がっていて、それを前に「…蕎麦屋でも行くか」と呟く三幸。
 そこへ紫ノ杉木兎が帰ってくる。おさげに着物姿の女の子を連れて。木兎に向かって、何だそのガキ?と困惑顔の三幸。
 木兎は「アタシの孫だよ」と紫ノ杉兎を紹介する。早くに両親を亡くしたので、古い友人の住職に預けてずっと育てて貰っていたが、ちょいと事情があって引き取ってきた、暫くここで一緒に住むからね、と言いつける。
 三幸はめんどくさそうに兎を見降ろすが、「…?」ふと何かに気付いた様子で真顔になり、兎の顔を真正面から睨むように覗く。黙ったままの兎、三幸の顔を怯えることなくまっすぐ見上げる。
「お前、声は?」
 問いかけに、黙ったまま横に首を振る兎。三幸はフン、と息を付いて「怪士に盗られたか」。その言葉に「早速気付いたかい、一週間前からこうらしいんだ」と応える木兎。「赤い服の怪士に出会って声を盗られたんだとさ」。
 赤い服ねえ…と、すぐに思い当たる様子のない三幸。しかし木兎は「そんなワケだから、この子の事はお前に任せたよ。あたしは暫く戻らないからね」と言い置き、さっさと外へ出て行ってしまう。
 ハタと我に返る三幸、「ババア!てめえ人に押しつけて…」慌てて悪態を吐くが既に遅し。取り残された三幸、黙って立っている兎を見てから溜息をつき、どーしろってんだよ…と、情けない顔をする。

(三幸がみている夢)
 貧しそうな田舎の民家。室内が酷く荒らされ、床に老婆が血を流して倒れている。
 それを呆然と見つめている少年の三幸。(冒頭で登場した姿で)立ちつくし、足元には今朝、少女から受け取った風呂敷包みと竹の水筒が落ちている。すると急にハッとして、踵を返して表に飛び出し、隣の家へ走る。
 隣の家も襲撃に荒れた模様の跡。そこへ飛び込み、目を剥く三幸。座敷に倒れているお下げの少女。宙を向き、目を見開いたまま死んでいる。
「…楓…っ!!」歪んだ顔で叫ぶ三幸。
 暗転。

 眠っている三幸(現代)が誰かに揺さぶられるが目を覚まさない。すると今度はむんずと鼻をつままれ、息が苦しくなってとうとう飛び起きる「――何すんだ、コラ!」。起きあがると目の前に、着物を襷掛けした兎が居る。
 一瞬、兎の顔に見入って三幸、「かえで…」
 慌てて目を逸らし、布団から出つつ、「くそ…」とボソリ悪態を吐く。だが、次に顔を上げた途端動きが止まる。あれほど散らかっていた家の中が整理整頓され、裏庭では大量の洗濯物が風にはためき、ちゃぶ台に湯気を立てた朝食が並んでいたのだ。
 あっけにとられて「…お前が?」と兎を振り返ると、少女は微笑みながらコクコクと頷く。食卓についてみそ汁をすすると、三幸は驚いたように目を開き(美味かった)、向かいでニコニコしている兎を見ながらボソボソと呟く「ホントにあのババアの孫かよ…」

 それから毎日ちょこまかとよく働く兎。掃除洗濯、三度の炊事に、衣服の繕いまで何でもこなす。「お前、幾つなんだ?」あまりの働きっぷりに、呆れたように三幸が問うと、兎は手指で12歳と示す。
「…ふーん」素っ気なく返事をし、向こうへ行ってしまう三幸。そのまま店に入って腰を下ろし新聞を拡げると、すかさず湯気の立った茶が出てくる。脇を見ると、主人に従う子犬よろしく側に来て、ニッコリ見ている兎。
 三幸はやや苛立った様子で、片手でしっしと追い払う「ガキはガキらしくどっかで遊んでこい」。しょんぼりと見上げるが、やがて母屋の方へ引き揚げる兎。
 新聞を眺めたまま無視を決め込む三幸。兎が行ってから胸中で『同じ歳か…』と呟き、辛そうに顔を歪ませた。

 三幸は卓上に紙を拡げ、兎に「お前の声を盗った怪士はどんなやつだ?」と訊ねる。兎は手にした筆で、紙にさらさらと怪士の絵を描いてみせる。赤い服に大きな耳、背が低くて太った体。
 それを見てすぐ三幸は「なんだ『ぴいひゃら』じゃねえか」つまらなさそうに口にする。こいつは声を奪って、笛を作るのが好きなふざけた怪士だ。さぞかしお前の声が気に入ったんだろうよ。
 すると三幸は、片手に猫の顔をした面と、もう片手に紙製の札を持ち、札の方を店の戸に貼り付けながら言った。
「これは木兎ババアが作った、怪士除けのまじない札だ。貼っておけば怪士はこの家の中に入れない」そう言って顔に猫の面をつける。すると三幸は兎の目の前で、一匹の黒猫に変異した。
 目を丸くする兎に向かって、黒猫姿の三幸は構わず続ける「俺は今から梦津國に行って、ぴいひゃらからお前の声を取り返してくる」。言いながら店内にある、(冒頭の懐中時計と同じ)模様の付いた姿見の前に行き、片手前脚をかける。すると鏡面が波打ったように歪み、三幸はその中へするりと入ってしまう。驚いた兎は慌てて手を伸ばすが、鏡はすでに硬いただの鏡面に戻っていた。
「こいつは俺の術がないと出入り出来ない、特別な梦津國への扉だ。この鏡から怪士が入ってくる危険はない」鏡の向こうからする三幸の声に顔を上げる兎。「いいか、俺が戻ってくるまでその札は絶対剥がすな。それから声が戻ったら、お前はさっさと元居た寺に帰りな。俺は、お節介な家政婦は間に合ってるんでね」
 鏡に映る、寂しく沈んだ兎の表情。
 外は夕刻、店の側の電柱に、一羽の鳥(ミミズクのシルエット)がとまっている。

 日が落ちて、古今屋で留守番をする兎。
 すると突然、店の戸をガタガタと叩く音。気付いた兎が怖々伺うと、ガラス戸の向こうに、自分の声を盗んだ怪士の「ぴいひゃら」が戸を叩いていた。驚く兎。
 戸の向こうでぴいひゃらはオロオロしながら言う、ごめんよお嬢ちゃん、あたしゃあんたの声がキレイだったから、ちょっとでも笛が吹きたくてつい盗っちまったが、まさかあの三幸の旦那の知り合いとは知らなんだ。旦那を敵に回そうなんて怖ろしい事思っちゃいない、すぐに声を返すから、そのお札を外しておくれ。
 兎は用心深く見つめていたが、人の良さそうなぴいひゃらが気の毒になり、札を外して戸を開ける。開けて貰って喜ぶぴいひゃら、両手に大事そうに小さな笛を持ち、これがあなたの声の笛だ、吹けばすぐ元に戻るよ、と渡そうとする。
 が、そのぴいひゃらの足元の地面から、束になった長い蔓が突き出し、瞬く間に兎の体に巻き付く。ぴいひゃらもその事に驚き、囚われた兎を助けようと手を伸ばすが、蔓の一部に店内へ跳ね飛ばされ気を失う。ぴいひゃらの足元に転がる兎の笛。
 さっきの街灯の鳥が飛び立って羽根が散り、その一枚が兎の襟元へ飛んで来て突き刺さった。
 兎は店内の鏡に向かって手を伸ばし、パクパクと声なき声で何か叫ぶが、蔓は巻き取った兎を引き込み、そのまま土中へ姿を消してしまう。

 梦津國の世界を歩いている黒猫の三幸。「…ガキ相手に、大人げなかったかな…」などとブツブツ言いながら、やがて小さな家に着く。戸の前で不機嫌そうに「おい、ぴいひゃら」と声をかける。が、返事がない。中を覗いても留守で、どっか行ったか?と辺りを見回る三幸。
 その刹那、何かに気付いてその場から飛び退くと、同時に地面から鋭く尖った植物の蔓が勢いよく突き出す。「!?」猫の三幸は飛び回って蔓の攻撃を避けるが、とうとう攻撃を喰らう。その瞬間、三幸が人の姿に戻り、つけていた猫面はふたつに割れる。
 着地した三幸、本体は何処か別の場所に居るな?と考えながら、「誰だ貴様!?」と誰何する。すると冒頭で蔓マシラが発した「ボウボウボウ…」と鳴く声がどこからか聞こえ、途端に三幸の体が縛られたように動かなくなる。この声は蔓マシラ?しかし…「倒した筈だぞ、それに何だこれ…っ、この前と力が…違う…!!」
 するとボウボウ言う鳴き声に「我が子をなぶり殺された母親の憎しみ」を現す言葉が混じって聞こえ、「同じようにお前からも奪ってやろう、その目の前で引き裂いてやろう」と続く。三幸はその言葉を聞くうちに何か思い当たった顔になり、「まさか…!?」と呟く。
 やがて動けない三幸に向かって、何本もの蔓が向かってくる。三幸は歯を食いしばってじりじりと片手を動かし、なんとか懐に突っ込んだ。三幸に巻き付こうと伸びる蔓。瞬間、三幸の足元に魔法陣が現れ、その姿がかき消えた。

 古今屋の店内の鏡から、三幸の体が転げ出る。(さっき懐に入れた方の)片手には蓋の開いた懐中時計を掴んでいる。すぐに身を起こし見渡すと、店の戸は開き、お札は剥がれ、床にはぴいひゃらが気を失っている。一瞬、愕然とする三幸。
 だがすぐにぴいひゃらの胸ぐらを掴み、貴様ここで何してる、兎は何処へ行った!?と問いつめる。ハッと目を覚ましたぴいひゃら、慌てふためきながらも、自分は声を返しに来たが、兎は地中から現れた蔓に連れて行かれ、行き先は解らないと話す。
 三幸は手を放し、唇を噛んでうつむく、「俺のせいだ…」。さっき襲ってきたのは、ひと月前に倒した蔓マシラの母親だ。彼女はあの時、倒される我が子の有様をどこかから見、自分に恨みを抱いたのだ。木兎の「やりすぎだ」の苦言が甦る。それが兎を巻き込んだ…
 三幸の脳裏に浮かんだ兎の笑顔に、夢に出た楓の死に顔が被る。
「くそ…!!」怒りを込めて毒吐くと、再び鏡に向き直り掌を向けた。だがぴいひゃらが、むやみに行ったらやられると止める。三幸は苛立った様子で、だからってここでのんびりしてられるか、兎の行き先が何処か解らない以上、こっちから出て行くしかないと言い返す。その時、戸口に木兎が現れ「兎の行き先ならコイツが案内するよ」。肩にさっきのミミズクを乗せている。
 見てたのか!?食ってかかる勢いの三幸に、「違う、たった今戻ってきたんだ。だが事情はこの耳鳥に見張らせて知っている」と木兎。兎の声がぴいひゃらに盗られた事は、最初から察しが付いていた。さして心配もない怪士だからアンタに全てを任せたが、まさか蔓マシラの母親が出てくるとは…苦渋に顔を歪ませる木兎。
「…必ず助ける、必ずだ」言って三幸は改めて鏡の前に立つと、ふとぴいひゃらに顔を向け、「お前の力を貸してくれるか…?」と訊ねる。ぴいひゃらは勢いよく頷き、こうなったのも自分が兎にお札を剥がさせたせいだ、連れて行ってくれ!と頼む。

 梦津國の世界。朽ち果てた石の神殿の様な場所、地面には柱や石像が倒壊し、陽光を受けて地面に濃い影をあちこちに落としている。そして中心の一際大きく立つ像に、植物の蔓が巨大な塊となって絡み、中心には蔓マシラと同じ、しかし皺のより多く刻まれた大きな猿の顔が貼り付いていた。
 その傍らに、蔓が巻き付いて気を失った兎が吊り下げられている。襟元の鳥の羽はまだ刺さったまま。
 蔓マシラの猿の顔がぴくりと動き『…来たね』と呟く。兎も気が付いて顔を上げる。

 すると、先に見える地面の影から、跳ねる魚のように黒い塊が尾を引いて飛び出し、別の影へ飛び込み、また別の影から飛び出し…を繰り返しながら、スピードを上げて蔓マシラの元へ近付いてくる。
『影渡りか。小細工を…』猿の顔が呟くと、太い蔓が唸りを上げて飛び出し、地の影を突き刺す。だがそれより黒い塊は先手で移動し、とうとう蔓マシラの足元まで来て、高く空中に飛び出した。黒い塊に蔓が突き刺さるが、切り裂かれたのは黒い布のマント、それを剥ぎ取りながら中から三幸が無傷で現れる。
 三幸は高い足場に着地すると、兎を吊り下げている蔓の根元に飛び移り、刃物を取り出して振り上げる。『させるか!』叫んだ蔓マシラは、例のボウボウボウ…という緊縛の鳴き声を口を開け発する。咄嗟に下を向いて叫ぶ三幸、「ぴいひゃら、やれ!」

「合点!」下に、木兎と共に来ていたぴいひゃら、術を操る。すると蔓マシラが発していた鳴き声が突然消え、ぴいひゃらの手の中に、独特の形をした大きな笛が現れた。一方の蔓マシラは口をパクパクと開け、途絶えた自分の声に戸惑う。「封じた!」ぴいひゃらと共に喜ぶ木兎。

 三幸は刃物で兎の蔓を切り離す。同時に、下に駆け寄った木兎が術を放つと、宙に放たれた兎の体は、風に巻かれてやんわりと地に降りた。「もう大丈夫だよ」木兎とぴいひゃらに守られる兎。

 兎の無事を目で確認した三幸の元へ、唸りを上げた蔓が急襲する。迎え撃つ三幸。蔓マシラは声なき声で叫び、その顔は怒りで大きく歪み、両目から涙がこぼれている。
「……」その顔を見、ふと、顔から険を抜いた三幸。突如攻撃から身を守っていた手を止める。下から見上げていた木兎は、咄嗟に兎の顔を自分の懐へ隠す。
 何本かの鋭い蔓が、血煙を上げて三幸の体を貫いた。(※流石に心臓の場所は除外。肩と腹と脇腹辺りに3本くらい)
「…気が済んだか」貫かれたまま三幸は静かに言うと、蔓マシラの眉間に向けて、片手の刃物を深々と叩き込む。時が止まったように一瞬で息を止めた蔓マシラ。木兎は見上げながら「急所を…」と呟いた。

 三幸は顔を歪めて体から蔓を引き抜く。猿の顔に亀裂が入り、割れてガラガラ落ちる。やがて蔓も、ぴいひゃらが盗った声の笛も、煙のようにすべてが大気に溶けて消えた。
 三幸は蔓で穴の空いた箇所を手で塞ぐと、傷が消え、服には血と穴だけが残る。
 後ろを振り返ると、自由になった兎がすぐ側へ来て立っていた。手には自分の声の笛を持ち、まっすぐに三幸を見上げている。

「…怖い思いをさせて、悪かったな」
 三幸の言葉に、兎は首を横に振ってから、手にした笛を構えて吹いた。きれいな音が一度高く響いた後、笛は光の粒子となり、兎の口から中へと吸い込まれていく。
「…たすけてくれて、ありがとうございました」
 ぺこりとお辞儀をし、笑顔でお礼を言う。しかしその目に、じわじわと涙が堪ってやがてこぼれる。見ていた三幸は溜息を吐いて苦笑すると、かがんで片手を兎の頭に乗せ、「ガキのクセして無理すんなよ、怖かったんだろ?」と髪をガシャガシャ撫でる。すると兎はとうとう堰が切れたように、三幸に抱きついて子供らしくわんわん泣き始めた。
 抱きつかれた三幸は慌てたが、やがて小さく笑って、泣きじゃくる兎を抱きながら『良かった…』と息を付いた。


 半年後。古今屋。
「先生、先生、起きてくださいよ、もうすぐお客さんが来ますよ」襷掛けにハタキを持った兎が三幸を起こしている。揺すっても起きず、またも鼻をつままれて起きる三幸。
「…客?」「怪士の事で相談したいって、さっき電話がありました」「婆さんに言えよ」「用事があるって朝から出掛けてます」「最近そればっかだな、あのクソ婆…」
 掃除をしながら応対する兎に、文句を言いつつ着替えてやってくる三幸。以前と姿が変わっている。髪は短く、書生風に着物を着ている。
「お婆ちゃん、そろそろここの仕事は全部先生に任せたいって、こないだ言ってましたよ」
「…お前、その先生ってのやめない?」
 三幸が渋い顔をすると、えっどうしてですかとケロッとした顔で言う。「だってここって怪士専門のいわば探偵事務所なんだから、三幸さんは先生じゃないですか!」無邪気な兎に、げんなりして肩を落とす。
 その時、店の戸を叩く音がする。顔を上げる三幸。

「お、来たな。――兎、お茶」
「はいっ、先生!」

 笑顔で応える兎で、物語終わり。


(制作:2010年)
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  1. 2018年04月04日 10:47 |
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